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長橋)
IoTの分野ではどんなアイデアがマーケットで評価されるのでしょうか?
稲田)
そうですね。エコシステム構築というアイデアは重要です。
たとえば、IoTプラットフォームがあるとします。この場合、その優位性を確保する仕組みづくりがポイントになります。
これを実現するためパートナー制度をつくり、IoTプラットフォームの活用や販売はパートナーに任せてしまう、接続するデバイスの開発やシステムインテグレーションなどもパートナーに任せてしまう。
そして、自らはIoTプラットフォームを使い易くすることに集中するという手があります。多くのパートナーが得意な領域でがんばることで、IoTプラットフォームが多くの領域で競争力を有するものに進化します。
パートナーは、競争力のあるIoTプラットフォームをかつぐことで、ビジネス上のメリットにつながります。
win-winの関係を実現するために、このようなエコシステム構築という発想は重要だと思います。
長橋)
エコシステムとはお互いがハッピーになる仕組みですよね。最近では、シェアリングがお互いをハッピーにする仕組みのように見えますが、シェアリングで面白いアイデアはありませんか?
稲田)
これについても面白い例があります。ベビーシッターをシェアする仕組みを開発した会社の例です。
主にお子さんをお持ちで働いている女性を対象とし、子供の急病や突然のできごとでベビーシッターが必要なときに、マッチングをするビジネスです。
面白いのは、女性が働くことを可能にすることによって便益を受ける企業から報酬を受け取っていることです。
これは目から鱗でした。確かに、企業に利益が発生する。ベビーシッターサービスを利用しやすくすることは、働く環境を提供することであり、
福利厚生サービスの一環なのです。
だからベビーシッターサービスを利用する女性からではなく、企業から対価を受け取る。
大変合理的ですが、言われてみないと気付かないアイデアですね。
長橋)
パートナー制度にしてもシェアリングの活用についても、お互いがハッピーであるwin-winの関係を築くということですね。
稲田先生は、IoT時代には「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方良しのビジネスモデルが重要だと指摘されています。
これについてもお聞かせください。
稲田)
今の時代は、社内だけではなく、他社をどう巻き込むか、ユーザをどう巻き込むかが重要です。
このドライビングフォースとなるのは共感です。
みんなに「これいいね」と共感してもらうことが重要なのです。
IoTはいろいろなモノをつなぐシステムです。つなぐことによって、さまざまな人たちに関係し、影響を与えます。
まさに社会システムという側面を持つのです。だからこそ、売り手と買い手だけではなく、
世間が付け加わった三方良しのモデルで考えなければならないのです。
プラットフォームのように規模の経済性が働くモデルでは、みんなが良いと思う要素が必要です。
ビジネスの基本が変わっているのです。世間が「これいいね」と認識すると口コミの力が働き、あっという間にユーザが広がります。
世間とユーザが近くなっているのです。
IoTによる「仕組み作り」は企業規模を超越できるのか
長橋)
話はちょっと変わりますが、IoTの普及についてお伺いできればと思います。
たとえば、インターネットは90年代後半から日本で本格的な普及がはじまりましたが、技術自体はずっと以前からあるものでした。
こうした観点から、IoTの普及についてどうご覧になっていますか?
稲田)
IoTについては、ロジスティクス曲線(普及曲線)のかなりの段階まで来ていると思っています。
とくに、工場の稼働管理などでは利用が進んでいます。しかしながら、IoTを活用してビジネス変革まで踏み込む会社は日本では少ないのが現状です。
また、IoTは大企業向けというイメージがありますが、これは間違っています。
アプリックスさんが手がけているような中小企業に向けたIoTも大事です。
長橋)
中小企業は、どのようにIoTを活用すべきなのでしょうか?
稲田)
IoTでは、中小企業であっても仕組みを作ることが重要です。
ベンチャー企業のGlobal Mobility Service(GMS)の例ですが、この会社は2015年4月からフィリピンで低所得者向けの車両提供を始めています。
ポイントは、IoTによって車両の稼働状態を管理し、支払いが滞ったらネット経由でエンジンを停止し、車両を回収するという与信リスクを軽減する仕組みを作ったことです。
会社規模は小さいのですが、マイクロファイナンスの仕組みを実現するために銀行と協業している他、通信キャリアや電力会社とも協業しています。
小さな組織でもコアコンピタンス領域を確立し、さらに協業でそれを活かす仕組みを作ることで大きなビジネスを提供することが可能になっています。
長橋)ベンチャー企業でも大きなビジネスができるようになると、大企業の役割もかわってくるかもしれないですね。
稲田)
はい、住み分けだと思います。
ベンチャー企業はいいアイデアを持っていても資金力やビジネスを回す運営体制が弱いことがよくあります。
これに対し大企業は、資金力や運営体制については一日の長があります。
したがって、大企業がベンチャー企業と組んでアイデアを一緒に育てていく、そういう住み分けが重要だと思います。
IoT活用による価値創造と社会の進化
長橋)
もうだいぶ昔のことですが、かつて松下幸之助氏が率いる松下電器は、
当時、次々に新製品を発表するソニーなどのマネをした製品を販売してビジネスを拡大しました。
現在だと、このように大企業がベンチャー企業のマネをするというのは通用するのでしょうか?
稲田)
現代ではスピードが重要になっています。
製品やサービスが高速で進化する時代にマネをすると遅くなってしまいます。
下手なマネをしてブランドイメージを傷つけるより、ベンチャー企業と協業し自社ラインアップの価値を高める方が賢いと思います。
長橋)最後に、ちょっと漠然とした質問ですが、IoTによって変わる将来について、稲田先生のご見解をお聞かせください。
稲田)
たとえば、オランダの野菜生産は日本にくらべて圧倒的に生産性が高いです。
それは、スマートアグリと呼ばれるように、温度、湿度、養分など野菜栽培の環境データや市場データを収集・分析し、
野菜生産の効率性を高める環境と的確な市場戦略を実現しているからです。
日本では、現在、建築・土木分野が面白い。国交省が、i-Constructionを推進しているからです。
これは、IoTを活用して、建築・土木工事の設計、施工、保守などの生産性を高めようという取り組みです。
このようなIoT活用によるパラダイムシフトは、あらゆる分野で起きます。
個人的にはオフィス革命に興味を持っています。
イノベーションを促進するために働き方や発想、意識を変え、その効果をデータで検証していく。
また、什器や部屋の色、温度、湿度、照明など社員のイノベーションを高めるためにオフィスの物理環境をデータで「見える化」してより良い環境を実現していく。
これからの時代、あらゆる分野でIoT活用が進み、社会がそして人が進化していくと考えています。
次回予告
前・後編の2回に渡ってお送りした 稲田 修一 様へのインタビューはいかがだったでしょうか。
次回もぜひお読みください。
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長橋)
IoTの分野ではどんなアイデアがマーケットで評価されるのでしょうか?
稲田)
そうですね。エコシステム構築というアイデアは重要です。
たとえば、IoTプラットフォームがあるとします。この場合、その優位性を確保する仕組みづくりがポイントになります。
これを実現するためパートナー制度をつくり、IoTプラットフォームの活用や販売はパートナーに任せてしまう、接続するデバイスの開発やシステムインテグレーションなどもパートナーに任せてしまう。
そして、自らはIoTプラットフォームを使い易くすることに集中するという手があります。多くのパートナーが得意な領域でがんばることで、IoTプラットフォームが多くの領域で競争力を有するものに進化します。
パートナーは、競争力のあるIoTプラットフォームをかつぐことで、ビジネス上のメリットにつながります。
win-winの関係を実現するために、このようなエコシステム構築という発想は重要だと思います。
長橋)
エコシステムとはお互いがハッピーになる仕組みですよね。最近では、シェアリングがお互いをハッピーにする仕組みのように見えますが、シェアリングで面白いアイデアはありませんか?
稲田)
これについても面白い例があります。ベビーシッターをシェアする仕組みを開発した会社の例です。
主にお子さんをお持ちで働いている女性を対象とし、子供の急病や突然のできごとでベビーシッターが必要なときに、マッチングをするビジネスです。
面白いのは、女性が働くことを可能にすることによって便益を受ける企業から報酬を受け取っていることです。
これは目から鱗でした。確かに、企業に利益が発生する。ベビーシッターサービスを利用しやすくすることは、働く環境を提供することであり、
福利厚生サービスの一環なのです。
だからベビーシッターサービスを利用する女性からではなく、企業から対価を受け取る。
大変合理的ですが、言われてみないと気付かないアイデアですね。
長橋)
パートナー制度にしてもシェアリングの活用についても、お互いがハッピーであるwin-winの関係を築くということですね。
稲田先生は、IoT時代には「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方良しのビジネスモデルが重要だと指摘されています。
これについてもお聞かせください。
稲田)
今の時代は、社内だけではなく、他社をどう巻き込むか、ユーザをどう巻き込むかが重要です。
このドライビングフォースとなるのは共感です。
みんなに「これいいね」と共感してもらうことが重要なのです。
IoTはいろいろなモノをつなぐシステムです。つなぐことによって、さまざまな人たちに関係し、影響を与えます。
まさに社会システムという側面を持つのです。だからこそ、売り手と買い手だけではなく、
世間が付け加わった三方良しのモデルで考えなければならないのです。
プラットフォームのように規模の経済性が働くモデルでは、みんなが良いと思う要素が必要です。
ビジネスの基本が変わっているのです。世間が「これいいね」と認識すると口コミの力が働き、あっという間にユーザが広がります。
世間とユーザが近くなっているのです。
IoTによる「仕組み作り」は企業規模を超越できるのか
長橋)
話はちょっと変わりますが、IoTの普及についてお伺いできればと思います。
たとえば、インターネットは90年代後半から日本で本格的な普及がはじまりましたが、技術自体はずっと以前からあるものでした。
こうした観点から、IoTの普及についてどうご覧になっていますか?
稲田)
IoTについては、ロジスティクス曲線(普及曲線)のかなりの段階まで来ていると思っています。
とくに、工場の稼働管理などでは利用が進んでいます。しかしながら、IoTを活用してビジネス変革まで踏み込む会社は日本では少ないのが現状です。
また、IoTは大企業向けというイメージがありますが、これは間違っています。
アプリックスさんが手がけているような中小企業に向けたIoTも大事です。
長橋)
中小企業は、どのようにIoTを活用すべきなのでしょうか?
稲田)
IoTでは、中小企業であっても仕組みを作ることが重要です。
ベンチャー企業のGlobal Mobility Service(GMS)の例ですが、この会社は2015年4月からフィリピンで低所得者向けの車両提供を始めています。
ポイントは、IoTによって車両の稼働状態を管理し、支払いが滞ったらネット経由でエンジンを停止し、車両を回収するという与信リスクを軽減する仕組みを作ったことです。
会社規模は小さいのですが、マイクロファイナンスの仕組みを実現するために銀行と協業している他、通信キャリアや電力会社とも協業しています。
小さな組織でもコアコンピタンス領域を確立し、さらに協業でそれを活かす仕組みを作ることで大きなビジネスを提供することが可能になっています。
長橋)ベンチャー企業でも大きなビジネスができるようになると、大企業の役割もかわってくるかもしれないですね。
稲田)
はい、住み分けだと思います。
ベンチャー企業はいいアイデアを持っていても資金力やビジネスを回す運営体制が弱いことがよくあります。
これに対し大企業は、資金力や運営体制については一日の長があります。
したがって、大企業がベンチャー企業と組んでアイデアを一緒に育てていく、そういう住み分けが重要だと思います。
IoT活用による価値創造と社会の進化
長橋)
もうだいぶ昔のことですが、かつて松下幸之助氏が率いる松下電器は、
当時、次々に新製品を発表するソニーなどのマネをした製品を販売してビジネスを拡大しました。
現在だと、このように大企業がベンチャー企業のマネをするというのは通用するのでしょうか?
稲田)
現代ではスピードが重要になっています。
製品やサービスが高速で進化する時代にマネをすると遅くなってしまいます。
下手なマネをしてブランドイメージを傷つけるより、ベンチャー企業と協業し自社ラインアップの価値を高める方が賢いと思います。
長橋)最後に、ちょっと漠然とした質問ですが、IoTによって変わる将来について、稲田先生のご見解をお聞かせください。
稲田)
たとえば、オランダの野菜生産は日本にくらべて圧倒的に生産性が高いです。
それは、スマートアグリと呼ばれるように、温度、湿度、養分など野菜栽培の環境データや市場データを収集・分析し、
野菜生産の効率性を高める環境と的確な市場戦略を実現しているからです。
日本では、現在、建築・土木分野が面白い。国交省が、i-Constructionを推進しているからです。
これは、IoTを活用して、建築・土木工事の設計、施工、保守などの生産性を高めようという取り組みです。
このようなIoT活用によるパラダイムシフトは、あらゆる分野で起きます。
個人的にはオフィス革命に興味を持っています。
イノベーションを促進するために働き方や発想、意識を変え、その効果をデータで検証していく。
また、什器や部屋の色、温度、湿度、照明など社員のイノベーションを高めるためにオフィスの物理環境をデータで「見える化」してより良い環境を実現していく。
これからの時代、あらゆる分野でIoT活用が進み、社会がそして人が進化していくと考えています。
次回予告
前・後編の2回に渡ってお送りした 稲田 修一 様へのインタビューはいかがだったでしょうか。
次回もぜひお読みください。
INTERVIEWER | インタビュアー紹介
長橋 賢吾(ながはし けんご)
株式会社アプリックス代表取締役 兼 取締役社長。